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2013年8月9日金曜日

「風立ちぬ」 感想


西の方が大雨で甚大な被害を受けているかと思えば
思い出したかのように猛暑を振るう天気に嫌気がさして、
今話題の「風立ちぬ」を見てきました

久しぶりに映画館で映画見たなぁ…
ご無沙汰だった映画館体験を飾るにふさわしい作品だったので感想書きます

放映中の映画につき、ネタバレ厳重注意!




「風立ちぬ」は宮崎駿監督のアニメ映画。
1930年代の日本を舞台に、
零式艦上戦闘機を手掛けた天才設計技師・堀越次郎の半生を描いたスタジオジブリ作品。


いやー…。
この映画、キャッチコピーが「生きねば。」なんですけど、
見た感想を一言で言えば、まさに「生きねば。」になっちゃいますね
エンドロールを眺めながら、とんでもない映画を見たぞ、とじんわりと感じました


この映画は完全に大人向けで、人によってはあまり心に刺さらないかもしれません
「風立ちぬ」で描かれるのは、戦争に向かう国を舞台にした男のロマンであり、
夢を追いかける男を支える女性の真実の愛です
登場人物の誰に感情移入するかで、評価が変わるのだと思います


俺は男で、主人公の二郎に完全に感情没入しました
と同時に、彼の大先輩であるカプローニ伯爵の言葉に脳を揺さぶられました
おそらく製作者の意図した、最も典型的なハマり方をしてると思います


二郎とカプローニは飛行機の設計技師として、
「美しい飛行機を作る」をいう夢を共有しています
この2人の見る「夢」は、尋常なものではなく、一種の狂気と言ってもいい
それくらいの情熱をもって設計に没頭していきます


それを端的に表すのがカプローニの強烈な言葉。
「設計とは、夢に形を与える仕事だ」
「創造的な生き方の持ち時間は10年」
「風は吹いているかね?なら生きねばならぬ」
「力を尽くしているかね」


これらの言葉通り、力を尽くして二郎は夢を追いかける
「風」というのは、飛行機が飛ぶために必要な「向かい風」と、
立ち向かわなくてはならない「困難」を指すのだろう


繰り返される失敗、削られていく愛する人の命…
そんな「困難」を前に、二郎は怯まず彼の考える理想の設計を続ける
最後に彼は夢を形にし、最愛の人を亡くす…

「この10年、力を尽くしたかね?」と問われ、
「はい。最後はぼろぼろでしたが。」と答える二郎
普通、やり切ったら後は死ぬだけだと考えるところだが、
それでも「生きねばならぬ」と繰り返される


大切なものを犠牲にして夢に偏執する二郎の姿は狂気の沙汰という側面もあるが、
翻って、自分の人生を振り返って、どんな逆境にも立ち向かえるほどの夢や、
自分を何度も立ち上がらせるほどの信念を持ったことがあっただろうか
そんな灼熱の人生を歩む自分を想像できるだろうか


カプローニの言葉にもあるように、彼らは日々全力で生きている
まるで翌日死ぬと宣告されたみたいに、毎日を生き急いでいる
それは、もうすぐ戦争に巻き込まれるという閉塞感の中で生まれた焦燥感なのかもしれないが、
設計に必要なクリエイティブなセンスが枯渇する前に最高のものを作るという決意があるのは確かだ
だからこそ、「尽力」して懸命に夢を追う彼らの姿がこんなにも美しく、感動を呼び起こすのだろう


なんというか、食って寝るだけじゃ生きていることにならないんですよね
「全力で何かを成し遂げる」ことが、その過程が、「生きる」ことの本当の意味なんでしょう
この映画は、全編を通して何度も何度もこのメッセージを訴えかけてきます
だからこそ、俺も「生きねば。」と感じたのだと思う



あと、菜穂子と二郎の愛が本当に…言葉にできません
サナトリウムに入れられても抜け出し、設計一筋の二郎の下にいることを選ぶ
二郎は彼女の命が削られていることを承知で、側にいることを認めて貫く
両方、誰もができることじゃないですよね


普通命が危険にさらされてるなら病気を治そうとするし、
愛する人が死ぬかもしれないなら病院から出さないですよね
エゴじゃないのか、と上司の黒川さんに問われても、
妹?従姉妹?の加代に詰め寄られても、
「僕らはすでに覚悟しています」
「僕らは今、一日一日をとても大切に生きているんだよ」
こんなに重くて固い台詞、なかなか聞けるもんじゃありません
ていうか、庵野さんすげーよ。ちゃんと心に響く台詞を届けてくれてるよ。
監督としての実力だけが凄いわけじゃなかったことに、最大の賛辞を送りたい


そして夢を実現した二郎を送り出したあと、死に場所を探す狼みたいに静かに去る菜穂子…
それに気づいた黒川さんの奥さんの台詞がもう…
「一番綺麗でいられる自分を、愛する人に見てもらったのね」
…一気に涙腺崩壊スレスレまで削られました


菜穂子や加代に感情移入すると、二郎の姿勢が狂執に感じられるかもしれませんが、
二郎は「生きて」いて、かつ菜穂子への愛を固く貫いています
何度も言うようですが、大切な人が死にそうなら、例え彼女の願いでも絶対病院から出せませんよ
こんな決断する自信は俺にはないなぁ


夢への情熱と真実の愛。これを彩るのが周りの人々ですよね
特に黒川さんがやばい!
一見厳しい上司だが、二郎の腕を認めつつ、その実力を発揮させるための優しい気配りが光る
「いい上司」の見本のような人物でした
厳しい反面やさしい、そんなアンビバレントな性格を表すためにマスコット的に頭身が低く描かれている
このキャラデザもアニメならではの表現ですよね
本当に素晴らしいデザインだと思いました


作品のメッセージ性に加えて、演出が凄い。
設計者たちが図面を見て飛行機の飛ぶ姿を想像するシーンの表現が素晴らしい
あと、効果音も、人が口で出しているとは信じられないくらいリアルで、
それでいて、人の口から出ていることによる温かさというか、命を感じます
そしてなにより、久石譲の音楽!もう筆舌に尽くしがたいクオリティです



以上をまとめて俺の今の心境を言葉にすれば
「生きよう」
「人生の最後に、力を尽くしたかと訊かれて肯定できるようになろう」
…ですかね。


…本当にとりとめのない感想になってしまったなぁ
まぁ、これだけいろんなことを考えさせる映画だということが伝わればいいなと思います
日本の歴史を大筋で理解できている中学生、または高校生以上の男女にぜひ見てほしい映画です

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