ページ

2014年1月5日日曜日

北村薫著「空飛ぶ馬」の感想と決意表明


かたじけのうござる(挨拶)


今回は珍しく、前の記事から1週間以内に更新しています
題名通り、小説を読んで思ったことを吐き出します
このブログでは、本と言えばラノベしか話題にしてこなかったと思いますが、
こう見えて普通の小説も読んでんだぞってことで、駄文を書き連ねます
ネタバレには気を使って書きましたが、保証はしかねます


「空飛ぶ馬」は北村薫のデビュー作(1989年)であり、
ミステリー小説における「日常の謎」と呼ばれるジャンルの草分け的作品だそうです
すなわち、殺人などのショッキングな事件ではなく、ありふれた日常の不思議な出来事を題材に
探偵役が推理を披露するような作品群のことです
(注:なお、「日常の謎」という分類に反対する方も多いようですが、上記のような作品を総称するために、あえてこの表現を使わせていただきます)

俺がこの作品を手に取った理由は2つあります
1つは、上記の「日常の謎」というジャンルに興味を持ったこと。
その直接的なきっかけは2012年に放送されたアニメ「氷菓」です

前々からミステリ小説には触れたことがあったんですが、
そのどれも殺人事件などが扱われた、「いわゆる」ミステリ小説で、
読書中は物語の展開についていくのが精一杯で、そこに推理する余裕もなく、
物語の結末でトリックが暴かれる段になって単純に納得するのがパターンでした
それが推理小説の普通の楽しみ方だと思ってたのです

しかし、このアニメを見ている時、俺は登場人物と一緒に謎を解こうと推理している自分に気が付きました
この作品では、事件のスケールと謎の解決方法(トリック)が非常に身近であり、
自分でも「こうじゃないか?」という答えを、紛いなりにも出すことができた
つまり、探偵役(「氷菓」では折木奉太郎)の種晴らしを、「答え合わせ」として楽しむことができたのです

その快感から、非日常的な事件ではなく、
日々のちょっとした謎を論理的に解いていく「日常の謎」というジャンルに興味が湧きました

ちなみに、この作品は米澤穂信の「氷菓」(2001年)が原作で、これまた著者のデビュー作
また<古典部>シリーズと呼ばれるシリーズものの第一作目でもあります
すっかりアニメ「氷菓」の虜になった俺は、アニメ終了前までに<古典部シリーズ>の既刊を読破
米澤先生の別シリーズ<小市民>シリーズにも手を出すほどになってしまいました(まだ「春季限定~」しか読んでませんが…)



二つ目の理由は、PCゲーム「リトルバスターズ!エクスタシー」で小説の存在を知ったこと。
この作品は2008年の発売ですが、俺がプレイしたのは2012年の冬だったかと思います
ゲームとしては一般的な恋愛(?)ADVです。去年にはアニメ化もされましたね。

この作品に出てくる西園美魚というキャラクターが文学少女で、
言葉の節々に文学作品のパロディが出てくる不思議ちゃんなんですが、
彼女が北村薫の言葉を引用するんです。すなわち、
『小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思います』
この台詞を聞いたとき、遅々としたゲームの進行に止まりかけていた俺の脳が覚醒しました
今まで漠然と物語を消費し、それを止められなかった理由が、目の前にはっきりと提示されたからです

その場面の中で、彼女はこの「空飛ぶ馬」を自分の好きな本として紹介しています
詳しい理由とかは忘れましたが、とにかくその瞬間にこの本をAmazonでポチったのを覚えています

それはつまり、この本を手に入れてから読了するのに約1年間掛かってることを意味するのですが
今ではこの季節に読み終わってよかったと思っています…理由は後述。



それで、「空飛ぶ馬」の内容についてなんですが、

まず、自分でも謎の正体についてある程度の予想を立てられるという点で、
「日常の謎」の面白さを再確認する事ができました
中には文学的知識がないと十分に理解できない表現があったりして、
教養のない俺には厳しいところもあったんですが、十分に楽しめたと思います


それに加えて、北村薫は「人間」を描くのが非常に上手いと感じました
この本は女子大生である主人公「私」の視点で描かれる一人称小説なんですけど、
読んでいるうちに自分が女子だと錯覚するくらい女性の感情を描くのが上手い!
北村薫って女性なのか?と検索してみると、男性作家とある。
同じことを思った読者は多いようで、この本の最後にある解説では、
「当時覆面作家であった北村薫が中年の男性だと知れて、ショックで寝込んだ愛読者がいるらしい」
…と書かれるほど。その気持ちすげー分かる。


探偵役の円紫さんが落語家ってのも斬新で面白い
円紫さんはほとんど事件に出会わずに、「私」から話を聞くだけでその謎を解いてしまう
いわゆる「安楽椅子探偵」ってやつにカテゴライズされるのかな?
話の細部まで気を配り、理詰めで人物の行動や出来事を説明する論理的思考力がまたカッコいい!

そして、事件の解決を通じて描かれる「人間」模様がすごい。
なぜそんなことをしたのか、つまり行動の動機が暴かれることで、
日常に潜む人間の仄暗い感情とか、温かい愛情とかが雪解け水みたいにジワッっと表れて、
いつの間にか読者の心を動かすんですよね

例を出すと、収録されてる「赤頭巾」という話が、題名とは対照的にダークな話になっていて、
その次の、本のタイトルにもなってる「空飛ぶ馬」という話が、何ともハートウォーミングなんですわ…
後者がクリスマスをテーマにしていることもあって、この季節にピッタリの話だったのがまたグッときました

こういうのを読むと、ミステリで描かれるのがトリックの巧妙さだけじゃ物足りない、というか勿体ないって感じます
事件を起こすのは人間であり、人間を動かすのは感情だってことを思い出させてくれる良作でした。



そして、1年越しでこの小説を読み終え、感動したことを踏まえて、ここに一つ決意表明をしたい。

俺は今後、2週間に1冊は必ず本(ジャンル問わず)を読了し、できる限り感想をブログに書く!

…はい。これを人生のルールとして守っていきたいと思います。
よく考えると、俺の今の読書スピードでは1月に文庫本2冊が妥当であり、
読書可能な期間をあと50年とすると、死ぬまでにあと1200冊しか本が読めないんですよね
俺の読んでない良書なんて何万冊あるんだって話なので、
少しでも俺の人生を豊かにするためには、本を読むことを止めないことが重要だと気付きました
つーことで、まずはこの宣言を方針として残りの読書ライフを送っていきたいと思います。


なお、この<円紫さん>シリーズはあと4作あるらしいので、順々に追っていきたいと思います
「日常の謎」に限らず、ミステリ小説で何かお勧めがあれば教えていただけると幸いです

0 件のコメント:

コメントを投稿